経済

日銀の黒田総裁がインフレ2%の目標達成を2018年度頃まで先延ばしにすることを発表しました。当初は2年で2%達成予定だったものの、3年半が過ぎた現在でも未達となっており、さらに1年半延長されましたので、結局5年かかる計算になると思います。

しかし、このような状況で本当に2018年には到達しているのでしょうか?

確かに、原油価格の下落や消費増税による需要減の影響などもあるかと思いますが、政府は当然、そのような外部要因もコミコミで試算していたはずです。地震などの災害とは違い、原油価格の下落や消費増税による影響は誰もが予測可能な要因でした。米国のシェール革命に対抗するため、中東は原油価格を下げるであろうことは誰もが予測していたことですし、消費増税による需要減ついても何年も前から予測されていたことです。

ですので、インフレ2%未達の状況というのは、他に要因があったとしか考えられません。

ぼくの認識では、これは日本国民のデフレマインドが異次元のレベルに到達してしまったのが大きな原因であると考えています。今、若年層に広がりつつある「ミニマリスト」という消費マインドが社会的なデファクトスタンダードとなりつつあり、この点を団塊の世代は見落としています。この強固なデフレマインドを前に、小手先の経済政策では歯がたたないのだろうと思われます。

例えば、最近、話題になっている大谷投手。

彼は年棒2億円であっても月1万円ほどの生活費で暮らしているようです。これは決して大谷君が特異なケースではなく、多かれ少なかれ、現在の若年層の消費マインドは似たようなものです。

もしも、日本国民が全員、大谷君だったとしたらどうなってしまうでしょうか?

単純に計算すれば、日本全体での売上高が年間12兆円になってしまいます。これは現在の売上高である約1335兆円(参照:平成24年経済センサス)の100分の1以下です。つまり、物を作っても全然売れず、値下げ合戦が繰り返されることにより、物価が下落してデフレに拍車がかかることになるはずです。

もちろん、決して大谷君を批判しているわけではなく、アスリートとしてのストイックさにぼくはリスペクトしております。なので、一般庶民である我々とはまた別の話かと思います。

けれども、社会全体のベクトルとしては無駄なものは一切消費しないという方向へ向かっており、この消費マインドの変化は特に若年層で顕著です。いわゆる消費マインドに歴史的なパラダイムシフトが発生しているわけですが、バブル経済を経験してきた団塊の世代には理解できないのかもしれません。

このままの状況ですと、2018年のインフレ2%達成は困難な状況であると僕は考えています。

日銀の金融政策決定会合が開かれ、今後は「量」から「金利」へと政策の重点をシフトし、新しい枠組みのもとで金融緩和を継続することが発表されました。

けれども、この手法ではまずうまくいきません。

当ブログ運営者は、以前から日銀の量的・質的金融緩和は失敗におわると予想していましたが、実際、3年後の現在でも未だに2%のインフレ目標を達成できずに失敗に終わっています。ぼくらのようなプロの視点でみれば一目瞭然なのですが、リアルな経済の実態を知らない銀行員が考えるとこのような結果になってしまうわけです。

もし量的緩和をやるのなら、金融機関が市中への貸出を増大する仕組みもセットで対応しない限り、インフレになるはずなどないのです。おそらく、経済学者的な考えで、ふいんき的なものでうまくいくと踏んでいたのでしょうけれども、ふいんきで実態経済が動いているわけではないのです。

リアルな経済、国際経済はそんなレベルで動いているわけではありません。日銀が金融の素人集団とはいいませんが、ぼくらからみれば、金融や経済のリテラシーが低いといわざるを得ません。案の定、2%の達成は当然のごとく失敗に終わりましたが、日銀はこの単純なことがなぜわからないのか、まさに僕らには理解できない異次元の思考といえます。

ただ、失敗ではあるものの、なかには一定の評価に値する政策もなかにはありました。それはマイナス金利の導入ですが、もし3年前の時点で黒田バズーカと同時にやっていたら、多少はましな結果になっていたかもしれません。この点については、最終的には失敗ではありましたが、よく頑張ったのではないかと評価はできます。

もし、日銀が最初からいっていたように、出せる玉を小出しにせず、マイナス金利導入も一度にやっていたら多少は違った結果になっていたのかもしれませんが、このあたりの対応は詰めが甘かったといわざるを得ません。また、消費税導入の延期についても、どうせ延期するなら、最初からやっておけばよかったのです。

この先も日銀の対応はおおよそ予測がつきますが、数年たっても2%のインフレ目標は達成できず、いずれはアップアップの状態で金融緩和が手詰まり状態になるかと思います。

その後、日銀は否定していますが、遅かれ早かれ、最終的には何らかのヘリコプターマネー的な対応をせざるを得なくなるはずです。その時期がいつになるのかは不明ですが、おそらくはあと5年ぐらいのうちには、何らかの変化が出てくるのではないかと僕は考えております。

英国のEU離脱から24時間が経過しましたが、各国の株価への影響は以下のようになっています。

日本:-7.92%
イギリス:-3.14%
ドイツ:-6.82%
フランス:-8.04%
米国:-3.38%

想定外となるEU離脱の結果を受け、金融市場は混乱しておりますが、具体的にどのような影響が出るのでしょうか?

まず、イギリスがEUへ輸出する際の関税が発生することにより、英国に拠点を置いていた多国籍企業の撤退が示唆されています。貿易量の減少のほか、国際的な資本が英国には流入しなくなりますし、企業の撤退により工場なども閉鎖されるため、大量の失業者が生まれることが想定されています。GDPも大幅に減少することでしょう。

加えて、連鎖的にEUを離脱する国が増えれば、その国でも同様の事態が発生することになりますので、経済活動はさらに停滞することが予測されています。

そのような状況のなか、ポンドが売られることで安全通貨といわれている円が買われることにより、円高になりますので、日本の輸出企業の業績も悪化することになります。これに伴い、日本企業の株価が下がることにより、世界同時不況に陥る可能性も出てきました。

世界的に経済活動が停滞することにより、原油への需要も低下し、最近は持ち直してきていた原油価格が再び下落することになるでしょう。そうなると、シェールオイルの採算も悪くなり、シェール企業の倒産懸念も再燃することになりかねません。

世界はリスクオフの展開をむかえることにより、今後、数年間は景気回復が見込めないとの見方が強くなってきました。

一方で、EU離脱が英国のみで留まることになれば、それほどの影響は出ないと思われます。EUが加盟各国の連鎖的な離脱を食い止めることができるかどうか、今後はこの点に焦点が移っていくことになるでしょう。

ブリティッシュ(英国)がEUからエグジット(離脱)する、いわゆる「ブレグジット」が関心を集めていますが、これを受け、世界経済はリスクオフの局面を迎えています。EU離脱を問う英国の国民投票が今月の6月23日に行われる予定ですが、世論調査では離脱派が若干リードしていることから、離脱の可能性が現実味を帯びてきています。

もし英国のEU離脱が現実となった場合、ポンドや英国株が軒並み下落することが懸念されており、リスクオフで円が買われる展開になっています。円相場は1ドル105円台へと突入しており、日経平均株価も16,000円を割れる展開となってきました。

そもそも、なぜ英国がEUを離脱したいのかというと、移民の流入により労働者が仕事を奪われる結果になっているのが大きな要因といえるでしょう。

けれども、実際に英国がEUを離脱した場合、他のEU諸国にも連鎖する可能性があり、次々に離脱する国が増えれば、欧州連合が崩壊する可能性もあります。実際に英国がEUを離脱するまでには、2年程度のタイムラグがあるといわれていますが、世界の金融市場は混乱を迎えることになるはずです。

ただ、世界経済へ与えるインパクトが大きいだけに、各国が協調して離脱を回避する流れになるかもしれません。国民投票の延期やEUによる移民問題の妥協などの可能性もあるでしょうし、あるいは実際に離脱した際の影響を最小限に抑えるための対策も欧州連合で模索されております。

米国のデフォルト問題のように、騒ぐだけ騒いで結局は何もなかったという展開も考えられますが、今回の英国のEU離脱は実際にフィフティー・フィフティーの確率となっております。

はたしてEU残留か、離脱か、どちらに振れるかが分からない展開となってきました。

最近の原油安の背景にはアメリカのシェールオイルの供給増がありますが、原油を輸出したいアメリカとそれに対抗する中東OPECによる安値競争がチキンレース化している状況といえます。

シェールオイルは採掘技術の難しさからコストがかかるといわれており、その採算ラインは1バレル50ドル程度といわれてます。このシェール革命によってシェアを奪われた中東諸国は、市場価格が下落しても減産せず、市場に原油をだぶつかせることにより、シェールオイルが採算割れをする価格まで下げようという意図がかいまみえます。おそらくではありますが、シェール企業が採算割れで破綻するまでは、中東OPECは現在の安値を維持していくことでしょう。

シェール企業は現状では何とか持ちこたえてはいるものの、WTI原油価格は既に危険水域を割り込んできており、今後は破綻する企業が相次ぐといわれています。日本の企業でも、2015年の3月期には住友商事がシェールオイル開発で巨額な損失を計上しておりますが、原油価格の下落や中国の景気後退による需要減により、シェールオイルでは利益を見込めないと断念する企業が増加していくはずです。

このシェール関連企業が相次ぐ倒産という事態になれば、関連する金融商品への影響も大きく、かつてのリーマンショックを上回る規模になると専門家は予測しています。リーマンショックは不動産のジャンク債による金融機関の相次ぐ破綻でしたが、次にくるシェールショックはオイル関連企業のジャンク債による破たんといえます。

一般に、原油価格の下落はエネルギー需要減による景気減退という受け止められ方をされ、それにより株などから資金を引き揚げて安全な円などにリスクオフされるため、円高になるといわれています。

けれども、今回は原油価格の下落によって、シェールショックの可能性が次第に高まってきていますので、株式市場からは徐々に資金を引き上げられて円高に向かうという流れが構築されつつあるのです。

なので、原油価格が元の状態に戻らない限り、当分の間は資金が株式市場へは戻ってこず、さらに円高が進むものと考えていてもよいでしょう。結果として、円高に連動する形で日経平均株価は下落するものと予測されておりますが、シェール企業の破たんが明るみになってきた際には、日経平均株価が5,000円~7,000円を割ってくる余地も残されています。

もし中東OPECが減産に転じたとしたら、円安に向かう可能性も残されてはいますが、ここで原油高に戻してしまうとシェール企業が息を吹き返してしまい、市場でのシェアを失ってしまいかねませんので、これまで原油安に耐えてきたコンコルド効果から現時点で手を引くことはないと思われます。

最終的に懸念されるのは、アベノミクスで拡大されてきた年金資金のゆくえがどうなってしまうのかという点ですが、これまで十数年にもわたって積み上げてきた50兆円規模の運用利益が目減りしてしまう可能性も否定できなくなってきました。